

丈夫な体と、繊細に向き合った肩甲骨のケア

現役時代は幸いなことに大きな怪我や故障はほとんどなく、比較的丈夫な体質でした。バタフライは腰への負担が大きい競技ですが、腰痛もひどい方ではなかったと思います。ただ、バタフライで最も重要になるのは肩甲骨周りです。腕や肩で回しているように見えて、実は背中の動きが肝心なんです。
肩甲骨の内側は張りやすいのですが、自分自身のストレッチだけではなかなか伸ばせません。練習後は毎回ローラーなどのアイテムを使って肩甲骨の内側をほぐすことを習慣にしていました。疲れている時に自分で無理にほぐそうとすると余計に疲れてしまうので、積極的に器具に頼るようにしていましたね。遠征にも必ずストレッチポールを持参していて、背中や広背筋のケアに欠かせないアイテムでした。

日々の練習が続く鍛錬期には、週に一度のオフに必ずプロのトレーナーのところへ行き、全身をしっかりほぐしてもらっていました。一方で、試合が近づくとケアの仕方を大きく変えます。疲労が少ない時期にマッサージで疲れを完全に取ってしまうと、逆に体が重だるく感じたり力が入りにくくなったりするんです。だから大会前はあえて程よい筋肉の張りを残すように調整していました。この繊細な感覚は、いつも同じトレーナーにお願いしないと伝わらないもの。自分の体の状態を誰よりも理解して、最適なコンディションを逆算して整えることを大切にしていました。
「泳げない時期」があったからこそ気づけた、水との繋がり

高校1年生の時にバセドウ病を患い、半年近く運動ができなくなった時期がありました。水泳選手にとって水から離れることは、感覚が完全に変わってしまうことを意味します。絶望しそうな状況でしたが、当時のコーチが「脈を上げない程度に水中ウォーキングだけでもしてみたらどうだ」と提案してくれました。
療養中も水着を着てプールに入り、ただゆっくり歩く。歩きながら少し手を動かしてみたりして、それだけでも水圧の感覚を養えました。そのコーチの提案がなければ、プールには近づけないと思っていたので、本当にありがたかったですね。結果的に薬との相性が良く、3ヶ月ほどで軽い運動を再開できましたが、「やりたくてもできない」という経験を思春期にしたことで、その後どんなに厳しい練習が続いても「泳げることのありがたみ」を常に感じながら競技に向き合えるようになりました。

現在、コーチとして選手を支える立場になり実感しているのは、自分自身の心身が健康でないと良い指導はできないということです。自分の中に不安や悩みがあると、選手と真剣に向き合うことは難しい。だからこそ今の方が意識的に「休む時はしっかり休む」というメリハリを大切にしています。自分が冷静で常に良い状態でいられるようにリフレッシュすることは、選手に最高のパフォーマンスを発揮してもらうための指導者としての責任だと思っています。
星さんにとって、休息とは

次のステージへ向かうための、ニュートラルな自分に戻る時間だと思っています。
現役時代、水の中は唯一誰とも会話せず音も聞こえない、究極の孤独な場所でした。でもその静寂の中で何千メートルも泳ぐ時間は、自分自身と深く対話できる貴重な時間でもありました。嫌なことがあっても泳ぎながら考えを整理することで、練習後には冷静になれた。体だけでなく、心や頭をリフレッシュさせて「また明日から頑張ろう」と思える状態を作る。そのための切り替えのスイッチが、私にとってはケアであり、休息の時間でした。
選手愛用アイテム

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撮影の合間の一コマ

選手の頃は「練習のために体力を極力温存しなきゃ!」と、階段なんて意地でも避けてエレベーターやエスカレーターばかり探していました。でも今は逆で、「こういう機会に動かしておかないと!」って自分から進んで階段を選んで登っているんです(笑)。明日を見越して極限まで温存モードだったのが、今じゃ「こういうところで体を動かそう!」って積極的に階段を使うようになっていて、自分の変化にびっくりです。
